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被災地岩手からの便り

2011年6月17日


中小企業家同友会の岩手支部のメンバーから、大震災発生から3ヶ月を経過した被災
地の現在の状況を伝える便りが届きました。あまり大きく報道されませんが、被災地
の深刻な状況と被災地企業の活動を一人でも多くの方に知って頂きたく全文をご紹介
させて頂きます。
中小企業家同友会は中小企業の経営者が集まり、『経営』の勉強をする場を共有する
会です。私阿久津も2年前に関与先の社長の紹介で入会し、現在は江東支部の幹事と
してささやかにお手伝いさせて頂いています。

─件名
かけがえのない、残された命を守るということ

─内容
 昨日で大震災発生から3ヶ月が経過しました。
 県内で最も早く5月1日に立ち上がった、岩手同友会の「けせん朝市」。その賑わい
を見た県内各地の商店からも「私たちもあのやり方ならできる」と声があがり、一
つ、またひとつと自然発生的に仮設商店街が生まれ始めています。まさに岩手復興の
旗手として、地域再興の先導役として大きな役割を果たしています。
 毎週のように全国各地の同友会から「炊き出しチーム」においでいただき、地元の
方々が「今日はどこのイベント?」と楽しみに訪れる姿があります。先日は大阪同友
会から餃子千人分が。今日は静岡同友会から新茶が振る舞われ「本当にありがたいこ
とだねえ」と互いに顔を見合わせながら大切に口に運ぶ表情は、ようやく生活に潤い
が出てきたことが嬉しそうです。
 一方で他県から現地を訪れていただく方に共通することがあります。「想像してい
た状況とは全く違った。こんなにも酷い状況とは思わなかった。意気揚々と支援に来
た自分たちが、現地を見て呆然としてしまう。それなのに『遠くからわざわざ有難
う』と誰もが温かい声をかけてくれる。元気を持ってきたはずなのに、逆に私たちの
方が・・・」と涙を流し話されることです。
 私たちにとっては特別のことではなく、只々生きるために必死でやってきたことで
す。映像や新聞報道では、被災した人たちがどんな心の在り様で日々歩んでいるの
か、まだまだ十分に伝わっていません。だからこそ、変わりつつある現地の表情を伝
えていくことが唯一全国の皆様に、私たちができることと思っています。

 実は壊滅的な被害を受けた沿岸地域の復興は、一向に進んでいません。がれきの処
理も遅々として進まず、仮設住宅を建設をする場所さえ、まだ決まったわけではあり
ません。むろん携わっている方々やボランティアの皆様は、全力で毎日格闘していま
す。
 進まない原因、それは土地が全くないのです。そして地域の将来ビジョンが全く示
されていないためです。どこに商店や工場を再び立ち上げれば良いのか、仮設の事務
所や店舗をどこにつくれば良いのか、全く展望を描けないのです。
 最初の2ヶ月は「何としても生きる」という気持ちだけで踏ん張れます。でもどん
なに強い人間でも、3ヶ月も経過すると限界点を越えてしまいます。今最も急がれる
のは、そうした限界をこえたこころの傷を、人と人とのつながりとぬくもりで、支え
あうことです。そして場合によっては専門の先生のこころのケアを必要としていま
す。
 震災から2ヶ月を経過した頃から、急激に自ら命を絶つ方が増えてきました。一切
報道される事はありません。誰も口には出しませんが、地域の人たちは皆知っていま
す。先日、家族の中で一人残された男性が亡くなりました。行方不明の奥様とお子さ
んが見つかり、その夜亡くなりました。被災地では何万人もの方が、同じ深い心の傷
を負っています。
 同友会のある会社では、30名の社員全員を集め、社員研修として健康講座を開催、
医療チームの方のお話と簡単なセルフチェックを行いました。結果は3分の1がPTSDや
初期的なうつ状態など、何らかの名前の付く病にかかっていました。そのうち5名は
すぐに、隣室に控えていた精神科医に診ていただく必要がありました。すぐに症状を
和らげる薬を処方していただき、状況は落ち着きました。そうした対処を早くするこ
とで、重症化する前に落ち着くことができるのです。大事なのは「早く」なのです。
 その社長ご自身も、実は処方を受けている一人でした。日中は社員の前で一切弱音
を吐きませんが、夜になると目の前で起きたことが鮮明にフラッシュバックしてくる
そうです。「ひょっとしたら社員も同じ状況かもしれない」と感じ、すぐ医療チーム
にお願いしました。
 かなり症状の重いある女性社員は、家に帰ると母親の状態が悪く「私はまだ軽いか
ら大丈夫」と自分に言いきかせて、眠れない症状を我慢していました。夜中に泣きな
がら社長に電話をかけてきて、初めて家族の状況も見えてきました。
 こうした現状に危機感を感じ、気仙支部ではすぐ動き始めました。「ほっとする時
間ありますか」「大災害のあとは、誰でも心に大きなストレスを受けます。心配しな
いで」と見出しをつけ、イラストの入ったこころのセルフケアチェックシートを、避
難所をはじめ、保育所、学校などに歩いて配り始めました。

 最も反応が大きかったのは保育所でした。「今子どもたちの間では、津波ごっこが
流行っているんです。」耳を疑いました。でも話しているその脇で、積み木を積み上
げ『津波だー』と壊す子どもの姿をがありました。唖然とする私たちに、「子どもは
心に受けた衝撃を、体で表して受けとめようとするんです」保育士さんがフォローし
てくれました。止めたり叱ったりしてはいけないそうです。「もう大丈夫だよ。」と
ぎゅっと抱きしめてあげる。そしてひとつひとつ積み直して「大丈夫。大人がまた、
元通りにしてくれるからね。」と笑顔で応えてあげる。そんな保育士さんも本当は一
杯いっぱいです。そしてその子どもたちが帰る家にはお母さん。お母さんも本当は泣
きたいんです。
 10日(金曜日)には、2回目の「こころのケア健康講座」が陸前高田ドライビングス
クールで行われました。県から派遣されてきた先生は、淡々とこれまでの3か月を振
り返ります。暫くすると、会場にいた女性が声を上げて泣き始めました。それから先
生の表情が急に変わりました。
 電気も水も出ない地域がまだまだあります。インフラ整備も復旧を急がなければな
りません。でも今、もっともっと急がなければならないのは、こころのケアです。恐
らく沿岸で被災を受けた地域では、全域で対策が遅れています。
 「このままだと危ない。地域のためになるのなら、何でもやろうじゃないか」気仙
支部では田村満支部長の声のもと、同友会の企業だけではなく地域全体の企業へ向
け、取り組みを呼びかけ始めています。そして経営者同士の声の掛け合い、そして学
校や保育所の先生方、親御さんへも同時に声をかけはじめています。

 これまで「1社もつぶさない、つぶさせない。」を掲げ、全力で動いてきました。3
か月経過した今、新たな段階に入りました。「残された命を守る」ことを、医療チー
ムだけではなく経営者が、そして地域全体が意識していかなければ、その先の復興は
ありません。
 心理士の先生によると、こうした生死を分けるようなショックを受けると、ほとん
どの人が何らかの心的衝撃が残るそうです。しかしながら、一部それを人間力でカ
バーできる人たちがいるそうです。その話を聞いた気仙支部の方々からは、こんな深
刻な中でも笑いが起きました。「俺たちは普段からまともじゃないからな。」「いや
俺はまともだから。支部長だけだよ。」と冗談を言いながら、配布用のイラスト入り
の沢山のこころのケアシートを手に持って、それぞれの地域に戻っていきました。同
友会の経営者の方々の人間力は、どんな厚い壁が阻んでも驚きません。「かけがえの
ない命を守る。」地域に生きる中小企業の原点を今、かみ締めながら生きています。

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